資産形成の灯台

投資・投機との関わり方に関する思索を垂れ流すブログ。

「もう騙されない!」みたいな投資本と、人間の進化の歴史について

私は投資本が好きで、本屋に行くとそのコーナーをよく見ている。そこでいつも感じることだが、タイトルに「騙されない」「嘘」「真実」といったキーワードが入っていることがよくある。また、セットになっているキーワードとして「暴落」や「金融危機」といったものもある。どこにでもよくある煽り本なんだが、今回は少しこれについて深掘りしてみたい。

 

 

協力的であることが生存率を高めた

人間は、人から騙されるということに恐怖を感じる。ただ、この「騙される」ということがここまで恐怖の対象になっているのは、人類の歴史の中でも最近かもしれない。人類が狩猟採集民であった頃や、初期の小規模な農村の共同体の中で生きていた頃は、お互いに協力し合うことが生存の可能性を高めていた。この辺りの話はゲーム理論でもよく出てくると思う。短期的には利己的な行動を取った方が自分の利益になるが、中長期的には利他的な行動を取った方がより多くの報酬を得ることができる。

 

この頃はコミュニティの規模が非常に小さかったので、不誠実な行動を取る個体はそのコミュニティから排除されていった。単独行動で安定的に食料を得ることは難しく、コミュニティからの追放はそのまま死を意味していた。このような淘汰圧が続いた結果、人類は群れの中で協力し合い、そのためにもお互いの意図に敏感な生き物になった。また、公平であることや平等であることに対する意識も強くなっていったのではないかと思われる。

「騙す」という生存戦略の登場

一方で、時代が進んでいくことで、必ずしもこうした性質が生存に結びつかない例も出てきた。文明が発展して都市が出現するようになってから、人と人との間の結びつき方も変わっていった。狭いコミュニティの中でお互いが顔見知りの状態ではなく、疎結合で匿名性が高い雑多な人々が同じ空間に暮らすようになっていった。また、商業と市場が発達し、そうした人々と取引をすることで利益を得るということも広がっていった。

 

ここで、「人を騙す」とか「騙される」といったことが登場する。これまでは狭いコミュニティの中で信頼を損ねると、中長期的な利益を失うということだったのだが、今度は信頼を犠牲にすることで短期的に大きく儲けるということができるようになった。都市部では、狭いコミュニティとは異なり、関係性が1回限りであったり、その後の自身の生存に影響を及ぼさなかったりする。であれば、彼らを騙すことで手っ取り早く大きく儲けた方が得である。

 

ここに来て、人類には人を騙して儲けるビジネスというものが登場する。これもまた、人間が高度な認知機能を持っているがゆえの適応である。より優れた生存戦略が環境の変化によって登場したならば、進化という長い時間を経ずに短期間で適応することができる。

 

かなりうろ覚えなのだが、昔読んだ柳田国男の民族学の本でこんなことが書いてあった記憶がある。農村部の人々は都会から来たよそ者に対して騙されやすい。初めは警戒をするが、うまい話を持ちかけられると相手を信じてしまう。何度もそういったことを繰り返していくうちに、土地の権利などもホイホイと渡してしまう…みたいなことだったと思う。まだ日本の近代都市化が始まって間もない頃ではなかろうか。

インターネットの登場、騙す戦略の加速

現代に戻ると、さらにここにインターネットというものが登場する。インターネットの特徴はネットワーク性と匿名性であり、都市化よりもより多くの人が簡単につながり、あるいは離れていく。これまでの農村や都市といった物理的なコミュニティとは根本的に異なり、極めて高い匿名性を持って相手と取引をすることができる。都市化の際に発生した人を騙して利益を得るというインセンティブがここでは加速する。

ある人々を騙して信頼を失っても、異なるアカウントで商売をすれば良い。あるいは、また新たな顧客を見つけて、こいつらから搾り取れば良い。意外とみんな、人の過去の経歴を調べたりしていない。こうした信頼の焼畑農業的なビジネスが可能になる。

騙されることへの防御反応を煽る投資本

それで、やっと投資本の話に戻ってくるのだが、「騙されない」みたいなフレーズは、こうした状況に対する防御反応を煽る文句だと思っている。特に興味深いと感じているのは、損をするかしないかよりも、むしろ人に騙されるということに対する拒否反応の方が大きい人もいるのではないかという点である。

 

投資においては、経済的な利益の高低が判断基準になるはずだが、「騙される」ということに対する恐怖の感情の方が優先されたりする。こうした思考形態は陰謀論の人たちにも見られており、他人の意志というものが非常に人間にとって大きなものであるということを感じさせる。

 

この辺りは、先ほど述べたような協力関係を元に生存と進化をしてきたということと、都市化が進展して以降は「騙す」という戦略が定着していったという文化的な背景の両方があるように思う。投資本を売るには、極端な話、投資の話はしなくても良い。いかにあなたが騙されているかということを煽れば良いのである。ついでに「暴落」といったようなキーワードを盛り込んで、別の恐怖もセットで煽ってやれば良い。こうして、現実的かつ実践的な投資からはかけ離れた投資本が出来上がる。これが生存戦略としての「ビジネス」である。

 

などという性格の悪い話を、文化人類学や進化生物学の本を読みながら考えていた。人間の歴史は数十万年、あるいは数百万年あり、そのほとんどを狩猟採集民として生きてきた。高度な認知機能を持っているため、高い適応力はあるが、ハードとしての身体的機能や特徴は未だに古い時代のままである。騙されるということ一つとっても、そうした時代のバグがまだ残っているんじゃないかな、などと考えた次第だった。

 

 

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