これまで読んできた投資本を紹介します。
知名度よりも、私自身の行動指針にどれだけ影響を与えたか…と言う視点から選んでみました。
読書は極端な考え方に対する免疫である
投資本は50~60冊くらい読みました。
身になったかと聞かれると、なかなか言葉にするのが難しいです。。
トレードの具体的なテクニックを解説する本は「こんな手法を実践に取り入れられた」と言う感じでわかりやすいのですが。
一方、所謂心理面や心構え、大局観、投資に関するモノの考え方等を扱った本は、読んだことによる効果が見えにくい面があると思います。
ただ、2020年から始まったバブルを経て、2022年現在の下落相場に掛けて、一定の利益を持ち帰れたのは、これらの本のおかげではないか…という感覚はあります。
当然、「読まなかった世界線の私」の結果を知ることはできません。
個々の本が私の思考回路にどのような影響を与えて、意思決定の在り方を変えたのかは知りえないのです。
ただ、「ポジションを減らすという選択ができたのは、あの本の考え方が頭の中にあったからかしら」といった思い当たる節はあります。
月並みではあるが、読書の効能は極端な考え方に対する免疫ができることにあると思います。
実はリーマンショック前夜の学生時代、貯めた小遣いで株を買ったことがありました。
THE★天井掴みのお手本のような感じだったが、あの時はなんかこう、「デイトレードで楽々投資生活!」みたいなゆるフワ系の本を読んで一念発起したのを覚えています。
当時の私はその本だけを以て、「簡単そうやん!一儲けしたろ!」と虎の子の資金を投じたのでした。結果については書きません(白目)
世の中にはリスクについては伝えず、調子のよいことだけを言う媒体が死ぬほどある。
また、この世には煽りの天才とも言うべき人種の方々がいて、それはもう感動さえ覚えるような表現で人を特定の行動に駆り立てる。
こうしたものから一歩身を引くには、右から左まで様々な人の考えに触れることが良いと考えます。
すると、属性は異なれど、著者たちにに共通の性質があることに気づきます。
どの著者も、徹底的なリアリストなのです。
私の血肉になったと思う9冊
これからパンローリングの投資本を読む人へ ──万年初級者の残念な思考と姿勢 塩見努
有名な本と言うわけじゃないけど、なんだかんだ記憶に一番残っているのがこの本。
後述のハワード・マークスの本と、どちらを最初に持ってくるかで悩んだ。
投資は、実践の世界である。
「本を30冊読んだから、俺、プロテニスプレーヤーにも勝てるよwww」などと言われたら「こいつおかしい」と一瞬で分かるが、投資はその辺が見えづらいように思う。
毎年、意気揚々と投資の世界に飛び込む者は多く、それと同じくらいの脱落者がいる。
多くの場合、実践から学びを得る前に脱落してしまうため、実は中級者以上の層は非常に少ないのではないかと考えられる。
この初級者に関する記述が印象として残っています。
万年初級者の典型に「自分勝手」な人がいます。要は、わがままな人です。 まず自分が初級者であること自体、分かっていませんし、けっして認めません。中級者の存在も知らず、「自分はいつの日か大投資家(上級者)になるんだ」という〝夢〟があります。 夢を持つことは非常に重要です。しかしそれは、自分の理想と投資目標を実現しようと本気になって、長い修行期間を乗り切るエネルギーを作り出すために必要なのであり、知識と経験に裏づけられた「根拠」のない、妄想の夢物語では、意味がありません。 相場自慢がいくつもあり、相場を知っていると豪語するわりには、全く資産が増えていない……どころか、追加した資金さえ溶かしています。ところが「結果が出ないのは○○が悪い」と、失敗や機会損失は、常に他人や相場のせいです。 他人の失敗をあれこれ批判するわりには、自分の失敗を反省し、経験から学ぼうという気がありません。
自分で調べようともしないで安易に人に聞いてばかりなのに、教えてもらっても感謝の一言もありません。学ぼうという姿勢が見られないどころか、なぜか横柄でうまくいかなかったら、悪口や文句ばかりです。当然ながら、親切な人は愛想をつかして離れていきます。
これ、「解像度たけぇな」と思います。
要は、「謙虚」じゃないと生き残れないんですよね。
私も「あぁ、これはやっちまったな」というトレードをすることがよくあります。
その時に自分の間違いを認めてポジションを切れるかどうかが、その後に地獄を見るかどうかの分水嶺になったりします。
10回中、8回くらいは「切らなくても良かったかな」ということもあるんですが、残りの2回で自分自身を救っていると感じます。
謙虚になるというのは、ある意味で自分を救うことなんですね。
また、「くれくれ君」の方も日常生活でもたまに見る人種です。
謙虚じゃないという特徴とセットの場合が多い気がします。
彼らは「信用の焼き畑農業」みたいなことをしていて、たかりまくって相手にされなくなると別の人のところへたかりにいく…という行動パターンを繰り返しているように見えます。
(本人は、なぜ人が離れていくのか不思議そうにしています)
そして、本来は自身で考えるべきことを「アウトソーシング」しているため、いつまで経っても「自分自身で考える」ということができません。変化に対応できないのです。
話が逸れましたが、
こうした認識の下、本書ではまずは「修業を積んで」、初級者から中級者に上がることを目指せと勧めています。
3~5年、売買500回以上、投資本50冊以上を読むことを勧めています。
その間は、無理なポジション取らずに、あくまで練習として取り組む。
その過程で、「心理」「手法」「資金管理」の3つからなる「脳ポートフォリオ」を作り上げていくことを目指します。
全くこうした知識・スキルの準備が出来ていない状態でも、ボタン1つで投資は始めることができます。
そんな中、「修業」という概念と、その必要性を説く本書は「初心者」にこそ価値があるものと思います。
投資で一番大切な20の教え &市場サイクルを極める ハワード・マークス
『投資で一番大切な20の教え』『市場サイクルを極める』の両方とも、私は大好きです。
どちらも通底する思想は同じなのですが、後者は題名通り、市場サイクルを中心テーマにしています。
中核となる思想は「未来は不可知だが、『確率とサイクル』という概念によって自らの行動を決めることができる」というものと理解しています。
サイクルに関する何らかの見識を生かせば、勝ち目が大きくなったときには投資額を増やしてより積極果敢な投資を行い、勝ち目が乏しくなったときには投資額を減らしてより防御性を高めることができる
ハワード・マークスの著書やインタビューを見ると、「どんだけ将来わかんないって言うねん」と感じることがあって、一種の虚無主義に見えたり、もどかしく感じる人もいるかもしれません。
ですが、これは0, 100でわからないと言ってるのではなくて、彼は確率と言う概念をこれでもかと言う程大切にしているため、こういう物言いになるのだと思います。
将来は不可知だが、サイクルの局面によって濃淡があるはずだ、、
その確率分布を推測することができれば、自ずとリスクテイクの姿勢も決まるはずだ。
こうした思想なわけです。
コロナバブル以前にこの本に出会えたのは、私にとって僥倖でした。
コロナバブルでは、空前絶後の緩和によって「サイクルが消失した」との言説も流れていたように思います。
ですが、結果的にはサイクルの一幕でしかないことが明らかになりました。
昨年から今年にかけて明暗を分けたのは、バブルのノリを引きずらずにポジションを削減できたかどうかだと思うのですが、
サイクルを意識し、局面の変化を感じ取っていた人たちは、これを実行できました。
著書の中でハワード・マークスはサイクルを意識して防御を高めることをしつこいほど強調していましたが、その重要性をやっと実体験を通して理解できたと感じています。
一方、ブルームバーグのニュースでは、コロナバブル中にミーム銘柄で稼いだ利益をすべて失った個人投資家もいるとの推計が出ています。
ただ、これは仕方ない面もあって、あれだけ毎日株価が上がりまくっていたら雰囲気にのまれてリスクとり過ぎるのも当然という気がします。
だからこそ、複数のサイクルを潜り抜けた人々の言うことに耳を傾ける必要があると思います。
私たちが生涯に経験するサイクルはそう多くないはずですが、読書を通してハワード・マークスが50年のキャリアで到達した知見に触れることはできます。
おそらく、今後もハワード・マークスの著書は折に触れて、私は読み返すことになると思います。
「恐怖で買って、強欲で売る」短期売買法 ——人間の行動学に基づいた永遠に機能する戦略 ローレンス・A・コナーズ
具体的なトレード戦略について書かれた本です。
TPS戦略(Time-Price-Scale in)という一種の買い下がり戦略等が紹介されています。
手法自体も参考になりますが、その背景にある考え方自体に影響を受けました。
トレード手法のエッジは、時代が変わっても消えない”必然性”が伴っていなければならない…というものです。
本書ではタイトルの通り、「恐怖と強欲」がエッジとしてテーマになっています。
うまくいく手法は皆が真似をし出すことによって、徐々にエッジを失っていきます。
しかし、恐怖と強欲のような変わり難い人間の心理に根差した手法は、優位性を保ち続けるのです。
長い進化の過程を経ても残り続けている私たちの脳の古い部分が、バブルや暴落時に見るチャートの”歪み”を作り出しています。
当分、私たちの脳はこうした激しい感情を克服するように急速な進化をすることは期待できそうにありません。然らば、TPS戦略が持つエッジも有効であり続けるでしょう。
行動科学と投資 その努力がパフォーマンスを下げる ニエル・クロスビー
一言で言うと、
「投資向きではないヒト種向けの投資本」です。
投資とは、人間の性に反した行為です。
この本は、それを端的に表現し、なおかつ「ではどうすればいいのか」を記したものです。
人間は、上がったものを買って、下がったものを売るようにできている。
ポイントは、本人の意思とは関係なく、「そのようにできている」という点です。
言うまでもなく、こうした行動特性は投資のパフォーマンスを下げます。
本書では、人間が投資に向かない生き物であることを前提にして、そうした反投資行動を抑制するルールベースの投資を勧めています。
著者は、これをアクティブ、パッシブに続く第三の投資と呼んでいます。
前半の内容は行動心理学のバイアスの解説なんですが、投資における具体例と絡めつつユーモアを交えて書かれていますので、楽しくサクサクと読めます。
ただ、肝心のルールの箇所は、具体的なルールの記述まではあまり踏み込んでいません。
その代わりに、様々なルール構築の参考になる知識を散りばめています。
いずれも、私が投資の勉強を始めて「これを知ることができて良かった」と思えるものばかりでして、もしかすると、この知識のカタログの方が、本書の価値なのかもしれません。
一例をあげると、
- 分散効果は十数銘柄程度で十分な可能性がある
- 30年バイ&ホールドをしても、インフレ調整後で損をする期間が15%もある
- モメンタム・バリューのプレミアムは、人間の克服しがたい行動に基づくものであるため、失われにくい
- 株式投資やチェスのように運の要素が大きいゲームは、スキル習得よりも機械的なルールの実践が有効。
- 調整は誕生日よりも頻繁にある。暴落は3~4年に1回もある。
私の場合は、これらの知識を別々の本などから学びました。
しかし、本書を読んでおけば、少なくとも入口・エッセンスの部分は得られます。お得ですね。
これらは本書のメインテーマである「行動特性」から、やや外れた領域まで扱っていますが、「結局、ルールを考えるときに何を頭に入れておかなければいけないんだっけ」を考えるうえで、参考になるものです。
その意味では、本書は「実践的」と言えるかもしれません。
ミネルヴィニの成長株投資法 マーク・ミネルヴィニ
我らがミネルヴィニキの投資手法の解説本です。
本書で役に立ったのは、「ステージ」と言う概念と、損切りルールです。
本書では機関投資家が株を買い集めて売り抜けるまでの各段階を4つのステージに分けています。
機関投資家が買い集めている第二ステージで「波に乗り」、個人投資家に押し付けて売り抜ける第三ステージまでにイグジットすることを目指します。
今、これらのどのステージにるのか、判断するためのヒントが載っています。
こうした知識自体もとても参考になるのですが、それ以上に「自分の反対側には別のプレーヤーがいる」という点を前提とした思考を身に付けられることが、本書の価値だと思います。
ほとんどの個人投資家は、自身の売買行動によって株価に影響を与えることができません。畢竟、戦略は「他人(大口)が動かした株価の波に乗る」ことが基本となります。
他人の行動が起点ですので、いつでも自分の思い通りに事が運ぶとは限りません。多くの時間はチャンスを待つことに費やすでしょう。
ただ、これは非常に重要な点だと思います。
トレードがうまくいっていると、まるで自分の思い通りの方向に株価が動く/動かせるような錯覚を覚えますが、これは勘違い of 勘違いです。
自分が他人の行動に乗っかているにすぎず、そこには常にアンコントローラブルな要素が付きまといます。これは忘れてはならない本質です。
ミネルヴィニ氏は、Twitterでもこの点をたびたび強調しています。不確実性を排除することはできないこと、自身が誤ること、謙虚になること、それでも辛抱強くチャンスを待つこと。
ツイートの半分はアンチとのレスバのような気もしますが気のせいです。
もう1つの損切りルールについては、過去の記事で書きました。
稼いだ利益で損失をカバーできていないとしたら、損切りラインの置き方に問題があるのかもしれません。
このリスク管理の章だけでも、この本の元を取っておつりがくる価値があると思います。
成長株投資の神 マーク・ミネルヴィニ
同じく、ニキの著書です。
こちらは、同じく著名なグロース株投資家との対談になります。
この本の良いところは、読者からのプリミティブな質問への一問一答形式で対談が進む点です。
Twitterでやると「思考停止乙」と煽られそうなクソリプでも、ニキたちが丁寧に答えてくれます。
各テーマについて短くサクサクと回答して進んでいくため、『成長株投資本』よりも読みやすいです。
回答を見ていくと、結局はどんな場面でも機能する最適解なんてものは無く、レジェンドたちも何かしらのリスクを受け入れて判断して、結果を受け入れているんだ…ということがよく分かります。
ただその一方で、分が悪いと判断した際には受け入れるリスクを減らすことに非常に神経を使っていることにも気づきます。
これは、ミネルヴィニ氏のみならず、他の本の著者たちにも共通する特徴です。
そしておそらく、継続的に生き残る投資家と、そうでない投資家を分ける本質的な要素であるとも感じます。
知られざるマーケットの魔術師 ――驚異の成績を上げる無名トレーダーたちの素顔と成功の秘密 ジャック・D・シュワッガー
マーケットの魔術師シリーズの最新作です。
既刊は有名なトレーダーへのインタビューでしたが、今作は市井の個人トレーダーに焦点を当てています。
登場するトレーダーの手法は驚くほど、百人百様です。
結局、うまくいく手法というのは、自分の気性に合った手法のようです。自身の外部に「万能の手法」が存在するのではなく、自身の内に「しっくりくる」手法を見出す…といったイメージでしょうか。
手法は様々の一方で、彼らには共通点も多く見出されます。
例えば、
- 自身のトレードを記録して振り返る
- 失敗から学ぶ
- 自身のエッジを見つける
- 感情に流されず、自身の手法を維持する
- 手法を変える柔軟性を持つ
- リスク管理に拘る
- 自身があるときはポジションを大きくする
…と言った点です。
このうちのいくつかは、矛盾しているようにも見えます。
これは、結局のところ、「自身の行動⇔結果のフィードバックを回し続ける」という現実的な態度を端的に示しているように感じます。
方法は異なれど、どのトレーダーも冷徹なリアリストとして、自身をマーケットに適応させ続けているのだと思いました。
個々の手法は真似してうまくいくといった類のものではないかもしれませんが、読んでいて、自身に合った手法を探し続ける勇気のようなものが湧いてくるのを感じる一冊です。
マネーの公理 マックス・ギュンター
最後はこれ。
これまでのどの著者も、リスクの存在をこれでもかと言うほど尊重するリアリストだったが、こうした姿勢を純化し、攻撃的な体系でまとめたのが本書だと思う。
私が印象に残っているのは、第一の公理の以下のフレーズだ。
不思議なことに、ほとんどの人は、自分でそうしたリスクを認識することなく投資を行なっている。彼らは、非常に賢明で注意深いふりをする。自分はリスクをとっていない、投機などしていないと、恐れている言葉をこっそりつぶやく。ギャンブルとは違う、投資しているのだと。
「安全な投資」「堅い投資」「王道の投資」…この手のフレーズは、すべて嘘っぱちで、意味がないばかりか有害だと思う。忌避感すら覚える。
リスクが「ない」などということは「ない」。
あるのは、リスクの濃淡だ。どんなに確率が低かろうが、テールリスクはあるのだ。
これらの言葉は、リスクの存在に対する認識を鈍らせ、壊す。
「起きにくい」ということと、「起きない」ということの区別をなくさせる。
「起きない」のだから、起きた時のことは考えなくていい。
事前に想定していなければ、リスクが顕在化したときにほとんどの人は動けない。
フリーズする。個人投資家の株式投資の強みは、いつでも逃げ出せる流動性のはずだが、じっとマーケットを見るしかなくなる。
第三の公理 希望について
船が沈み始めたら祈るな。飛び込め。
本書では、私たちをリスクから目をそらせるもの、思考を縛り付けるあらゆるものを否定する。
強欲、希望・楽観、予測・パターン、コンセンサス、執着、長期投資、分散投資…これらのすべてが否定されるものとは思わないけれど、通底している言わんとしていることはわかる。
目の前の変化を受け入れろ、将来の変化を受け入れろと言っているのだと思う。
公理とは、理論の出発点となる仮定のことです。
変化を否定するあらゆるものは、そもそもの議論の土台に乗せる価値さえない。
私は、そのように本書の内容を受け止めています。
終わりに
応援クリックいただけますと、励みになります!