資産形成の灯台

投資・投機との関わり方に関する思索を垂れ流すブログ。

ファンドラップって、バランスファンドと何が違うねん

ファンドラップの存在意義について少し考えてみたい。より正確にはバランスファンドに対して割高なコストを正当化する付加価値があるのかどうか、という点についてだ。

 

これまでゴールベースアプローチに関する書籍を読んでいて、「なんか色々と言ってるけど結局これってバランスファンドとあんま変わんねえじゃん」と思うことがよくあった。金融機関のホームページにもなんだか言い訳がましく、バランスファンドとファンドラップの違いについて書いてあるけれども、正直あんまり納得のいくものが今までなかった。基本的に自社のサービスを前提にしており、その内容が自分たちで設定した手数料に見合うものだという前提で書いてあるので(当然だ)、批判的な視点で複数の観点からの検討がなされていないのだ。

 

それは自分たちのサービスを売るんだからそんなことはしないのは当たり前だと思うけど、バイアスのかかった情報を複数比較して商品の中身の理解や検討する身としてはたまらない。金融庁のプログレスレポートでも、「自社のサービス内容があまり詳しく書いてなくてバランスファンドとの違いがよくわかんねえやつどうにかしろよ」、みたいなことが書いてある。ほんまにそう思う。

 

というわけで、私自身の中でこういうのが判断の軸かなというのを並べてみたい。

 

なお、ゴールベースアプローチについては、この辺が参考になる。

 

 

 

アドバイスの提供レベルはどの程度のものか

大きく分けて、以下の2種類に分かれる。

  • 四半期ごとに運用報告書を送ってくるだけ
  • 人間のアドバイザーから助言を得られる

1つ目については言葉のままである。典型的なパターンとしては四半期ごとに、直近の運用結果などがレポートとして送られてくる。

大抵のファンドラップはリスクレベルに応じてポートフォリオが標準化されており、5つとか6つとかそういった中から選ぶようになっている。私自身はファンドラップを買っていないので想像の世界になってしまうが、基本的には個別のカスタマイズはほとんどされておらず、その標準化されたポートフォリオの内容についての解説が送られてくるのではないかと考えている。

 

このパターンが一番アレで、正直に言ってバランスファンドとの違いが最もよくわからない。バランスファンドだって運用結果の報告レポートがホームページにアップロードされているし、そうなるとこの点についてはバランスファンドとの商品的な差異はほとんどないのではないかと思う。

 

顧客が設定した目標とのギャップ分析等の付加価値がついているものもあると思うが、一方的に送られてくるレポート見て判断・意思決定できる人なら、そもそもファンドラップ選ばないと思う。

 

2つ目の人間のアドバイザーについては、いくつかのパターンがあると思う。

例えば、販売会社の担当者がそのまま専任のアドバイザーになるパターン。地銀とかはこのパターンが多いんじゃないのかなと思っている。最近はファンドラップのシステムを外部サービスで賄って、行員にファンドラップの販売やアフターフォローさせている地銀もある。

この場合、その担当者、または本部にいる専門部隊の知識や経験が、アドバイスの品質を決めることになると思う。別に彼らは自分自身で運用しているわけではないので、運用結果自体の説明力は外部サービスとの連携にも依存するのではないかと思う。あと、システムの販売会社などが行員向けのセミナーや勉強会などを開くこともあるようなので、そういった活動によっても決まってくるかも。

 

金融機関によっては相続などのその他のサービスも提供しているので、その辺りも含めて一体の助言を得られるのであれば価値があるかもしれない。一方で金融機関の選任の担当者が張り付くような顧客というのは、それなりに資産額がある人たちである。毎月数万円積み立てています、みたいな資産形成期の若い人だと、そもそもあんまり相手にされないかもしれない。

 

もう一つのパターンとして、サービスの提供会社お抱えのアドバイザーにアクセスできる権利を得られる…みたいなものもある。これは海外の証券会社などでよく見る。ロボアドバイザーの上位サービスとして一定の投資金額や、追加の手数料を払うと、お抱えのファイナンシャルアドバイザーに電話等でアドバイスを求められる…といった感じ。米国はこの辺りが進んでいるようで、コールセンター的な集中運用を行っているところもある。チャールズシュワブあたりが有名だと思う。国内でざっと検索をしたらフィデリティが担当アドバイザーがつくことを明確に謳っていた。

 

細かいところでは、都度都度違う人が担当するパターンと、ずっと同じ専任の人が対応してくれるパターンにも別れる。

 

余談だが、金融庁の言う通り、マジでこの辺りのアドバイス・アドバイザーがどの程度サービスとして提供されるのかが分かりにくい。「お客様をしっかりアフターフォローします!」みたいなことを書いているところでもよくよく見るとただ単に四半期ごとに報告書を送ってくるだけだったりする。一部界隈でファンドラップに対する評判がすこぶる良くないのも、よくわかる。

運用実績はまともか

ファンドラップは手数料が1.5%とか2%あったりする。これに対して期待リターンは用意されたリスクレベルによってまちまちである。リスクレベルが低いものは運用もかなり保守的なので、運用の巧拙によっては普通にコスト割れしたりする可能性がある。

特に2022年は債券がべらぼうに下がったので、リスクレベルが保守的であるほど債券の運用比率も大きく、コスト割れの可能性が一段と高かったのではないかと思う。

 

またまた金融庁の資料によると、コスト控除後のファンドラップのシャープレシオはバランスファンドに劣るものが多いとある。また、ファンドラップの販売側がコスト構造や商品性などについて顧客に詳しく説明をせず、苦情が多く寄せられているという話も載っている。

https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/kokyakuhoni_tf/siryou/20220926/02.pdf

 

最新のプログレスレポートでは、金融機関によってはそもそも運用の実績を開示していない/リスクレベルごとのふわふわしたイメージが乗っているだけで、コスト控除後のパフォーマンスがそもそもわからない、といったことも指摘されている。

https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20230421/20230421_2.pdf

 

私もいくつか見てみたのだが、ある金融機関では実績ではなく想定リターンだけが載っていた。これがまたコスト控除後なのか控除前なのかが載っておらず、サービスを利用するかどうかの判断材料にすらならなかった。
(一番リスクレベルが低いものがリターン2%くらいであり、コストを控除するとほとんど顧客の取り分がなくなっちゃうので、コスト控除後だとは思いたいが…)

 

パフォーマンス関連では金融庁が指示をして開示をさせている共通KPIが参考になる。例えば顧客の中で何%が運用益がプラスで、何%が運用益がマイナスなのかみたいなものを公表させている。

以下は日経の記事からの引用で、運用益がプラスとマイナスの顧客の割合をグラフで示している。

 

www.nikkei.com

 

おそらくサービスを開始した時点での相場環境や商品性などにもよると思うのだが、成績が下位の金融機関はなかなかひどいことになっている。確かにこれを見ると金融庁が、「本当に手数料がサービスの対価として適正なのかお前らちゃんと説明せえよ?」的な趣旨のことを言うのもわかる。

自分には他者のサポートが必要かどうか

以上踏まえて自分にファンドラップが必要かどうかの判断基準だが、、とどのつまりは「自分には他者のサポートが必要かどうか」という点に集約されると思う。

 

まずは入り口段階だが、そもそも自分でポートフォリオを組めないという人は選択肢になる。「いやそれでもバランスファンド買えばいいじゃん。あれならポートフォリオもへったくれもなくて、1本で済むんだから…」という意見もあるだろう。特に本ブログのようなマニアックなものを読んでいる方は、そう思う人が多いのではないか。

 

ただ世の中の多くの人はそもそも資産運用には興味がなくて、自分で金融商品を選ぶ知識がない/「選ぶ」という意思決定をしたくない、という感じではなかろうか。特に意思決定をしたくないというのは大きいと思う。よく金融機関が使う「プロにおまかせ」というフレーズは、実際にあれが刺さるからだと思う。

金融市場における意思決定は我々の日常生活の多くの場合と違って、間違った場合の結果というのが明確な「金銭的損失」という形で素早くフィードバックされる。意外とこういった類の意思決定事項に慣れてる人は多くなく、「そんなこと恐ろしくてできまへん」という人もいっぱいいるのではないか。

この場合自分で意思決定をしなければならないバランスファンドという選択肢はありえない。厳密に考えればファンドラップだって金融機関に運用を任せるという「意思決定」はしているんだけれども、心理的には相対的な負荷が軽いのだと思う。下がったら「お前何やっとんねん」と言える相手がいるわけだし。その手の人たちにとって、他責にできる(できないのだが…)可能性が残っているのは大きいのでは。

 

次に、運用段階でアドバイス・サポートが欲しい人もファンドラップが候補になってくるだろう。

先ほど述べたとおりファンドラップと一口に言ってもアドバイス・サポートの提供の度合いは様々である。特に四半期報告書を送りつけてくるだけのものは論外であると、個人的には思う。

例えば自分の生活環境の変化に応じてリスクレベルをどのように変えたらいいかとか、自分一人で運用していると不適切な行動(ex. 暴落の底で怖くなって売る)をしそうなのでサポートが欲しいとか、そのような人には需要があるかもしれない。

 

実際の商品のサービス内容次第なのであまり迂闊なことは言えないが、引退世代でだんだんと認知機能が衰えてきた場合も選択肢になるかもしれない。現役世代では自分で商品を選んで運用していても、高齢になるとだんだんとそういったことがしんどくなってくる。自分の判断の確からしさも怪しくなってくると、やっぱり信頼できる誰かに運用をお願いしたくなることもあるだろう。フルオーダーメイドの富裕層向けのサービスには手が届かなくとも、ファンドラップであれば相対的にコストは抑えられる。

 

ただこの場合は、本当に認知機能がやばくなってきた場合に、どういった対応になるかというのはよくわからない。そのあたりの付随サービスもついているならば安心なのだが、そこまで来るとファンドラップというよりは普通の個別サービスの方になっちゃうような気もする…。ちょっと調べた感じだと、認知機能の低下時に代理人が出金をできるような特約を付与するサービスはあるみたい。

https://www.tr.mufg.jp/ippan/release/pdf_mutb/200129_1.pdf

 

なお、アドバイスの品質については相手次第である。単に質問事項に関する知識や経験が十分かどうかというものに加えて、「長期的目線で顧客に寄り添う」という感情労働的なものを行える資質があるかどうか、という点も関わってくる。

正直に言ってこの点はなかなか見極めが難しいと思う。私も金融機関に勤めるものの端くれだが、そもそも金融機関のインセンティブ構造自体が非常に近視眼的な行動を促すものとなっている。

構成員に半期や1年ごとの目標を負わせて、その達成のためにケツを叩きまくる。大量採用の中でそのような同期同士の激しい競争をさせて、生き残った人間が幹部に昇進していく。ところでそういった競争勝ち残った人達って、人に寄り添う感情労働ができる人たちなんでしたっけ?という話である。

 

私の狭い経験では、昇進している人たちの中には一定程度、「人並みの共感性や倫理観を備えていたら絶対にやらない&でも儲かるようなことに手を出せるサイコパスなので昇進した人たち」が含まれている。本人たちは違うと言うかもしれないが、金融機関のリテール向け商品は本質的に大した差別化ができていない。そのため、手っ取り早く儲けようと思ったら往年の回転売買のように顧客を騙すような方法しかない。それを躊躇なくできるかどうか、これが金融機関で生き残る資質だったわけである。

 

最近はそのあたりも徐々に変わってきてるとは思うんだけど、大手証券会社の決算説明会資料なんかを見ると「ファンドラップの拡大によって固定費の100%カバーを目指します」みたいな「顧客視点どこっすか」的ことがでかでかと書いてあって、相変わらずパス味が深けぇなと思ったりする。

(決算説明資料なので経営視点ではこれでいいと思うんだけど、「なんか顧客騙して稼ぐのダメらしいので、黙ってても手数料が入ってきて自分たちが食いっぱくれないようにします」的なメッセージに見えちゃうのは僕の心が手遅れなまでに汚いからです)

アドバイスが手数料に見合っているか

そして最後に、自分にファンドラップが必要であるならば、あとは「アドバイスが手数料に見合っているかどうか」、という点に尽きると思う。

 

先ほども述べた通りファンドラップの手数料は1.5%とか2%とか普通にする。中には3%台後半みたいなクソやばファンドもあるみたい。

こうした高水準の手数料がアドバイスの対価として適切かどうか、である。海外の調査結果ではこのようなアドバイザーの経済的価値は通常数十ベーシスになるんだとか、いや100ベーシス以上あるんだとか、様々な主張がなされている。アドバイスを受けたグループはアドバイスを受けなかったグループに対して、不適切な行動を取らない傾向があるといった感じ。例えば暴落の底で売るとか。

 

ただこれは調査対象における平均値のようなものだと思うので、実際にそのような経済的効果があるかどうかは相手次第…かなり属人的なものではないかと思われる。知識やスキル、顧客への接し方はある程度標準化できるだろうが、アドバイザーの人格までは標準化できない。人間同士なので相性の問題もある。だからこそ測定が難しい。

 

そんなわけでファンドラップについて今自分が知っていることと、「この辺が判断基準なのかな」と考えていることをつらつら述べてみた。

お前本当に存在価値あるんかみたいなファンドラップ商品も割と多いんだけど、一部で志向されているゴールベースアプローチを起点にしたものはそこそこ納得感のある主張がなされていると感じる。この辺りの資料などはまあそうよねと思うこところが多かった。

https://www.jamplatform.com/wp-content/uploads/2022/08/c975a9b240c1d7e60a7c678c50a34331.pdf

 

あとは「でも結局は金融機関が食いっぱくれないようにしたいだけでしょ」と思われないような実践的な事例が積み上がっていくといいのではないかと思う。適正な対価を得るに値する素晴らしいサービスが増えることは、私も心から願っている。

 

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