本日は日経新聞の引用記事を掘り下げたいと思います。
投資家界隈では聞きなれた、「労働分配率の低下」のお話です。
労働分配率=労働者の取り分が減り続けている
この日経新聞の記事では、主に2つのことについて解説しています。
それは、
- なぜ労働分配率が減り続けているのか?
- このままだと、将来どういったことが起こるのか?
…ということです。
順番にみていきましょう。
なぜ労働分配率が減り続けているのか?
まずは、その理由・背景についてです。
記事で挙げられていたもの、私が調べたものも含めて、
次のような理由・背景が考えられます。
- イノベーションによる労働者の重要性の低下
- グローバル化の進展
- 労働組合の機能低下
- 資本市場の圧力の強まり
これも順番にみていきましょう。
イノベーションによる労働者の重要性の低下
まずはイノベーション、技術革新です。
一言で言うと、
「もう労働者って、重要じゃないんだよね」
「そんなに分け前払わなくてもいいよね」
…というような構造になりつつある、ということです。
これには2つの文脈がありまして、1つ目は自動化技術の発展です。
産業用ロボット技術の発展により、主に単純労働がロボットに置き換えられてきました。
その結果、そうした労働に対する需要が低下し、払われる賃金も増えなくなった、ということです。
2つ目の文脈は、ハードウェアよりもソフトウェアが付加価値を生む源泉になってきた、というものです。
象徴的な例を挙げましょう。トヨタ・アップルの比較です。
トヨタはハードウェア(生産設備)を駆使して稼ぐ企業、アップルはソフトウェアを活用して稼ぐ企業の代表です。
トヨタの2019年3月期の主要計数です。
売上高…30兆円
純利益…1兆9,000億円
従業員…37万人
続いて、アップルの2018年12月期の主要計数です。
売上高…2,700億ドル
純利益…595億ドル
従業員…13万人
…いかがでしょうか。
売上高は同じ程度の水準ですが、純利益ではアップルがトヨタの3倍近く稼いでいるのです。
さらに、その利益をアップルは、トヨタの半分以下の人数で実現しています。
この例からもわかるとおり、稼ぐ力の源泉はソフトウェアに移っているのです。
結果、利益を生むのに必要な労働者の数が相対的に低下しており、労働者に対する需要も低下していると考えられます。
グローバル化の進展
次は、グローバル化の進展です。
企業のサプライチェーンが世界中に広がり、
企業が新興国の安い労働力を使うようになりました。
そうすると、先進国の労働者は直接、彼らと競合することになります。
当然、賃金水準では敵いませんので、賃金が下げられるか、雇用自体が減少することになります。
労働組合の機能低下
こうした背景の下、労働組合の交渉力が低下したとの説もあります。
これまで見てきたとおり、労働者の相対的な地位が低下しています。
そんな中、「賃金を上げろ!」と言っても、なかなか経営者側には響かないものです。
資本市場の圧力の強まり
最後に、資本市場、つまり株主の声が大きくなっているとの説もあります。
四半期ごとの利益の極大化は、多くの経営者が株主から突き付けられている課題です。
そして、株主がより多くの分け前を望む場合、労働者に対する分け前は「コスト」でしかありません。
さらに、株主から経営を委託されている経営者の報酬も、株価に連動しているケースがあります。
株価を上げる安易な方法は、コストカットにより利益を増やすことです。
つまり、資本市場サイドの方々にとっては、労働者の分け前を減らすインセンティブが強く働いているのです。
こうした構造的な要因により、株主・経営者の取り分が増え続ける一方、労働者が割を食う羽目になっている、、との見方もあります。
いずれは「グローバル配当」が配られる世界に!?
さて、この傾向が続くと世界はどうなってしまうのでしょうか?
ここからが、この日経の記事の面白いところです。
記事では、次のような提言がなされています。
技術の進歩が際限なく資本ニーズを高めるなら、その当然の帰結として、資本のみの力で世界の全付加価値を生み出す未来へと突入することになる。
この場合には「国民配当」、いやむしろ「グローバル配当」といったものを制度化してはどうだろう。これはすべての人に妥当な(必ずしも全員が同じという意味ではない)生活水準を保証するための配当だ。こうしたグローバル配当というアイデアは、米アラスカ州が原油収入で基金を運用し、全住民に配当を支給するシステムと似ている。違うのは、グローバル配当は世界中のロボット、人工知能(AI)、機械が生み出した付加価値を全市民に分配する点だ。
グローバル配当です。
これは、なかなか面白くないですか?
イノベーションが労働者の必要性を下げ続けて、いずれ「ほぼ不要」となる日が来る。それならば、AIや機械が生み出した価値を世界中の人々に配る、、ということです。
さすがに、すぐにこうした世界が実現するとは思えません。
しかし、今、我々が生きている世界は、
従来の労働者中心の世界から、こうした資本中心の世界への移行期にあるのでしょう。
その移行期の序盤なのか、中盤なのか、意外にも終盤なのか、、どこかだということです。
私たち、個人はどうするべきかのか?
では、私たち個人は何をするべきでしょうか?
「グローバル配当」が始まるまで待つべきでしょうか?
おそらく、それは賢い選択とは言えないでしょう。
次のようなことが、個人でできることではないでしょうか。
- 機械に代替しづらい知識・スキルを磨こう
- 投資をして資本家になろう
順番に見ていきましょう。
機械に代替しづらい知識・スキルを磨こう
すでに言い古されている感もありますが、
機械では代替しづらい知識・スキルを磨きましょう。
個人的な経験でお話しさせていただきますと、
特定の専門知識 × 卓越したソフトスキルの組み合わせは、今後も飯のタネになるのではないかと思えます。
ここで言う「ソフトスキル」というのは、周りの人を巻き込んでプロジェクトを引っ張っていく力や、他者から共感を引き出す力、と言ったものをイメージしています。
いくら機械・AIが主役になっていくとしても、新しいことを始める際には人間が中心になって物事を組み立てていきます。
そうした場面で、中心に立てる人は強いです。特に、なにか専門分野で強みがある人は特に。
また、人間を相手にする商売でも、特定分野の強み × 共感を得るトーク術、、といった組み合わせは強いです。
いずれも商売柄、周りを見渡していて最近とみに思うことです。
投資をして資本家になろう
そして、最も手っ取り早いのは、、
資本家になりましょう。
株式を買って配当をもらう、キャピタルゲインを得る、、
これに尽きます。
政府が構造的な労働者・資本家の不均衡を是正してくれる未来は、まだまだ先です。
自分の身は、自分で守るのが賢明な選択ではないでしょうか。